福岡高等裁判所那覇支部 平成6年(行コ)1号 判決 1995年1月26日
沖縄県那覇市松尾一丁目一五番三七号
控訴人
池原茂男
右訴訟代理人弁護士
大田朝章
右訴訟復代理人弁護士
島袋秀勝
同県同市樋川一丁目一番一一号ライオンズマンション開南大通り二〇六号
控訴人
備瀬ツル子
同所同マンション二〇五号
控訴人
備瀬知健
右両名訴訟代理人弁護士
新里恵二
沖縄県那覇市旭町九番地
被控訴人
那覇税務署長 上間常秋
右指定代理人
斎藤博志
同
阿部幸夫
同
久場兼政
同
那須誠也
同
屋良朝郎
同
仲大安勇
同
工藤憲光
同
宮里勝也
同
松田昌
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用はこれを四分し、その各一を控訴人備瀬ツル子及び同備瀬知健の各負担とし、その余を控訴人池原茂男の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
(控訴人池原茂男)
一 原判決中控訴人池原茂男(以下「控訴人池原」という。)の敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人が、昭和六二年一一月三〇日付けで、控訴人池原の昭和五九年分所得税について更正処分のうちの短期譲渡所得額八四四八万九七〇〇円、税額五一八二万一〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
(控訴人備瀬ツル子及び同備瀬知健)
一 原判決中控訴人備瀬ツル子(以下「控訴人ツル子」という。)及び同備瀬知健(以下「控訴人知健」という。)の敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人が、昭和六二年一一月三〇日付けで、控訴人ツル子及び同知健の被相続人備瀬知良の昭和五九年分所得税についてした更正処分のうちの短期譲渡所得額八四四八万九七〇〇円、税額五一六八万八七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」(原判決四頁八行目から同一一頁九行目まで)に記載のとおりである。ただし、原判決五頁三行目の「訴訟の追行」の次に「等」を、同六頁一行目の「以下」の前に「その後江口毅が江口光江の持分を相続した。」をそれぞれ加える。
第三争点に対する判断
一 証拠〔甲イ一、五ないし一二、一六ないし一八、甲ロ二、四、乙一ないし一三、一七、一八、一九の1ないし4、原審証人仲宗根香代子、同青山實〕及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 沖縄県では戦災により登記簿をはじめ土地関係の公の記録が焼失してしまったため、戦後、その復元を図る目的で土地所有権認定事業が施行されたが、本件土地については、無権利者から土地所有権申請がされ、昭和四二年当時においては、これに基づき不実の所有権保存登記及びこれに続く所有権移転登記等がされ、また、本件土地には、建物を建築所有したり、建物に居住したりするなどして土地を占拠している不法占有者が多数いた。そこで、青山ヤエらは何とかして本件土地を取り戻したいと考え、昭和四二年四月一八日ころ、訴外知良との間で本件土地管理契約を締結し、「私儀、那覇市字樋川二九番地備瀬知良を代理人として左記の権限を委任する。一、拙者所有の那覇市壺川赤畑原の土地の取得の件についての一切」と記載された昭和四二年四月一八日付の訴外青山ヤエの署名押印のある委任状(甲イ六)(以下「本件委任状」という。)を訴外知良に交付した。
2 これを受けて、訴外知良は、弁護士である控訴人池原及び訴外仲宗根に対し、本件土地を共同所有する青山ヤエらのために本件土地の回復のための訴訟追行をすることなどを依頼する旨の本件訴訟委任契約を締結した。その際、訴外知良は、控訴人池原及び訴外仲宗根に、右訴訟等委任事務の報酬として、本件土地の回復に成功したら訴外知良が青山ヤエから受け取る報酬を三人で分ける旨の話をした。
3 本件土地は、国道に接する部分と奥に位置する部分とで価値にかなりの格差があり、地形も変形で起伏があったため、現物を分割するのは困難であり、この点は、控訴人池原、訴外知良及び本件土地共有者も十分認識しており、また、本件土地共有者はいずれも沖縄県外に居住しており、本件最高裁判決が出たころには、本件土地を分割した上で右土地を直接利用しようと考えていた者はおらず、本件土地に関しては、現物分割するのではなく、いずれ右土地を売却換価することが予定されていた。
4 本件最高裁判決後の昭和五一年二月二〇日ころ、本件土地共有者は、訴外知良に対し、「本件土地共有者は、本件土地の所有権確認、現名義人からの所有権移転登記、現占有者からの土地明渡請求に関する一切の権限を貴殿に委任した。この度、本件土地について所有権確認、所有権移転登記、土地明渡しの勝訴判決を得たので、右判決を執行し、所有権移転登記及び土地明渡しが完了した後、貴殿において、本件土地を那覇市における時価をもって売却又は換価し、その対価の二分の一を貴殿の土地管理報酬として支払うことを誓約いたします。」と記載され、本件土地共有者の署名押印のある各誓約書(甲イ七ないし九)(以下「本件誓約書」という。)及び「沖縄県那覇市壺川赤畑原二一番の一ないし九に関する第一審、第二審の代理人報酬は、土地管理人備瀬知良との契約に基づき土地管理人備瀬知良において支払うものとし、青山實、江口光江、中島文子、青山妙子には、その支払の義務がないことを明らかにいたします。」と記載され、本件土地共有者の署名押印のある「代理人報酬に関する報酬の件」と題する書面(甲イ一〇ないし一二)(以下「報酬関係書面」という。)を交付した。
5 本件土地について、昭和五六年四月一三日、本件土地共有者四人の名義(持分各四分の一)で所有権保存登記がされたが、控訴人池原や訴外知良については、共有者としての登記はされなかった。
6 本件土地には、本件第一次訴訟の被害以外にも占拠者が存在していたため、訴外仲宗根、同知良及び控訴人池原は、本件最高裁判決後も、本件土地上に存在していた建物その他の構築物等を収去させるため、昭和五六年六月九日に建物収去土地明渡請求訴訟を提起するなどし、右訴訟は昭和五九年七月六日和解により終了した。なお、これらの訴訟活動等につき、訴外仲宗根らに対し、本件各受領金とは別個に何らかの報酬が支払われることはなかった。
7 本件土地は、昭和五九年六月三〇日、青山妙子ほか三名(代理人青山實)の名義で、訴外仲宗根英男に代金一一億円で売り渡されたが、右売買においては、訴外知良、控訴人池原及び訴外仲宗根はその売主とはなっていない。
8 本件土地共有者は、それぞれ、昭和五九年分所得税申告の際、本件土地の譲渡所得について、一一億円の四分の一である二億七五〇〇万円を譲渡代金とし、これから必要経費として訴外知良に支払った五億五〇〇〇万円の四分の一である一億三七五〇万円及びその他の費用二〇万円を差し引き、さらに特別控除額一〇〇万円を控除した額一億三六三〇万円を譲渡所得金額として申告している。
控訴人知健は、昭和五九年分所得税申告について、訴外知良から、「昭和四二年に訴外青山ヤエから委任を受け、昭和五〇年に最高裁で勝訴の確定判決を取り、その後も何件もの民事訴訟を提起し、二〇年近く苦労し、その間訴訟実費まで立替え、登記取得後は固定資産税まで全額負担して、やっと一億九〇〇〇万円の金を入手したのだ。これを昭和五九年度の私の所得として一括課税されたのでは、立つ瀬がないから、税務署に行って、何か合理的な申告方法があるはずだから教わって来い。」と言われ、訴外仲宗根の妻香代子とともに那覇税務署に行ったが、大した成果が得られなかったため、税理士田本信勇の指導を請い、同人から「訴外知良は昭和五〇年に本件土地の共有持分六分の一を取得し、その九年後にそれを処分しているから、申告すべきなのは、昭和五九年の雑所得ではなく同年の譲渡所得である。」との助言を得、昭和六〇年三月一五日、昭和五九年分所得税の確定申告をした。
控訴人池原は、同月一二日、昭和五九年七月一二日に訴外知良から受領した一億八〇〇〇万円が同年分の弁護士報酬であることを前提として同年分の所得税の申告をしたが、その後仲宗根香代子から田本税理士の指導内容を聞いてこれに同調し、昭和六〇年三月一五日、右受領分を譲渡所得として修正申告をした。
なお、訴外知良、同仲宗根及び控訴池原は、いずれも本件各受領金を自己の昭和五〇年分の所得として申告していない。
9 訴外知良が本件土地管理契約の履行に関わった者から報酬金を請求されている訴訟事件において、同事件における訴外知良の訴訟代理人である訴外仲宗根及び控訴人池原が作成した昭和六一年一二月一日付準備書面には、「本件第一次訴訟で勝訴したら、本件土地を売却又は換価してその対価の二分の一は訴外知良の土地管理等の報酬として訴外知良に支払うとの確約が取り交わされていた。」旨の記載がある。
また、同事件で、訴外仲宗根及び控訴人池原が作成した同年七月一日付準備書面には、「本件土地占有者に対する請求は、本件土地管理の付帯業務ではなく、その本質的業務であって一連の管理行為である。」旨の記載がある。
二 そこで、まず昭和四二年に締結された本件土地管理契約の内容について検討するのに、当時における本件土地の登記名義及び占有状況やこれに対する青山ヤエらの要望、さらには訴外仲宗根及び控訴人池原が作成した別件における準備書面の内容に照らすと、本件委任状記載の「本件土地の取得の件についての一切」の内容としては、少なくとも本件土地の所有権の登記名義及び占有の回復を含むものと解される。そして、その委任の内容や本件訴訟委任契約の内容にかんがみると、それ相応の報酬の約束をしたものと推認される。
本件最高裁判決後、昭和五一年ころ、本件土地共有者から訴外知良に対し本件誓約書が交付されているが、当時は本件第一次訴訟に勝訴したものの、また本件土地の登記名義や占有は回復されておらず、報酬の支払も済んでいない段階であり、本件土地管理契約は終了していない。してみると、本件誓約書は、当事者間で、本件土地管理契約における委任の内容を明確にし、これが、本件土地の現登記名義人及び現占有者に対する移転登記手続請求及び土地明渡請求、右勝訴判決の執行による所有権移転登記手続及び土地明渡し並びに本件土地の売却換価であることを確認し、また、その報酬の内容、支払時期及び支払方法についても、本件土地の右売却換価した対価の二分の一を報酬とする旨を確認したものと解される。そして、同時に、本件土地管理契約を履行するために締結された本件勝訴委任契約について、控訴人池原、訴外知良及び同仲宗根の三者間で、委任業務内容は本件土地共有者のために勝訴判決の執行による所有権移転登記手続及び土地明渡しのほか、本件土地の売却換価をすることも含まれること、並びにその報酬の内容、支払時期及び支払方法については本件土地が売却換価された後各自が報酬としてその代金の六分の一を受領することが確認されたものと推認される。
したがって、訴外知良や控訴人池原は、本件最高裁判決と同時にそれぞれ本件土地所有権の六分の一を取得したということはなく、訴外知良においては、昭和五九年六月三〇日に本件土地を第三者に売却し、同年七月一一日ころ、買主のために移転登記手続をするとともに売買代金を受領してこれを本件土地共有者(又はその相続人)に引き渡し、同月一二日ころ、控訴人池原及び訴外仲宗根に弁護士報酬を支払うことにより、本件土地管理契約により受任した業務を終了させ、右目的を実現した成功報酬として残額一億九〇〇〇万円を取得したものであり、同様に、控訴人池原においても本件土地を売却し移転登記及び売買代金の本件土地共有者への引渡を済ませたことにより、本件訴訟委任契約により受任した業務を終了させ、右目的を実現した成功報酬として弁護士報酬一億八〇〇〇万円を取得したものと解される。
そして、右判断は、前記認定に係る諸事情、すなわち、訴外知良及び控訴人池原は、本件土地の共有登記名義人にも、本件土地の売買契約の売主にもなっておらず、昭和五〇年分の税務申告の際に本件土地の持分の取得を申告していないなど、昭和五〇年に本件土地の持分を委任業務の報酬として取得した者なら通常とるべき行動をとっていないこと、逆に、本件土地共有者並びに訴外知良、同仲宗根及び控訴人池原は、前記一7ないし9の認定事実に窺われるとおり、訴外知良、同仲宗根及び控訴人池原が昭和五〇年には本件土地の持分を報酬として取得しておらず、昭和五九年に初めて本件土地管理契約の成功報酬として本件受領金を取得したものであるとの認識を持って行動していること、本件最高裁判決後の訴訟活動等につき、訴外仲宗根らに本件受領金とは別個に報酬が支払われることはなかったことともよく符号し、これによっても十分裏付けられる。
これに対し、証拠〔甲イ一四、二〇、甲ロ三、四、原審証人仲宗根香代子、同青山實、当審証人田本信勇、当審における控訴人知健本人〕中には、訴外知良及び控訴人池原らの報酬はそれぞれ本件土地の持分の六分の一とする約定があるかのような部分があるが、前記説示に照らすと、これは同人らに対し本件土地の持分を報酬として提供する趣旨をいうものではなく、本件土地の売却換価代金の各六分の一に当たる額を支払う趣旨をいうにすぎないか、あるいは、そのような約定があると誤解して聞いたか、ことさらに虚偽の事実を述べているかのいずれかであって信用できないものと解される。
なお、証拠〔甲イ一九の1ないし6、甲ロ五〕及び弁論の全趣旨によれば、青山妙子が、那覇市役所税務部納税課から送付された本件土地の固定資産税の納付催告書等を訴外知呂に送付し、訴外知良においてこれを納付していることが認められるが、証拠〔甲イ八(青山妙子及び中島文子作成の誓約書)〕によれば、これは、昭和五一年二月二〇日付誓約書の第三項により、青山妙子及び中島文子と訴外知良との間で、本件土地に対する税額は管理人である訴外知良の負担とする旨合意したことによるものであって、訴外知良が本件土地の持分を取得したことによるものではない。また、証拠〔甲ロ三、五〕によれば、那覇市が、昭和五七年ころ、本件土地の買収を検討し、その旨訴外知良に申し入れたが、折り合いがつかず、買収を断念したことが認められるが、訴外知良の右行為は本件土地管理契約に基づく管理人としてのものであると理解できるのであって、これをもって、訴外知良が本件土地の持分を取得していたことを基礎づけることはできない。さらに、仮に本件最高裁判決後の訴訟の代理人が訴外仲宗根だけであり控訴人池原が訴訟代理人になっていないとしても、証拠〔原審証人仲宗根香代子〕によれば、右訴訟において控訴人池原は訴外仲宗根と一緒に行動していたことが認められ、また本件訴訟委任契約の業務内容は訴訟代理人としての訴訟追行だけではないのであるから、控訴人池原の業務が本件最高裁判決により終了したとはいえない。
三 訴外知良は、本件のような土地管理受任業務を業とする者ではないので、同人が取得した報酬は雑所得に該当し、控訴人池原は弁護士業務として本件訴訟委任契約に基づき本件土地管理業務を遂行したもので、その報酬は、自己の計算と危険において対価を得て継続的に行われる業務から生じる所得であるから、事業所得に該当する。
したがって、被控訴人が本件各受領金を、訴外知良について雑所得とし、控訴人池原について事業所得としてした本件更正処分は適法であり、また、本件過少申告加算税賦課決定処分についても、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められず、適法である。
四 結論
よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないこれらを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 坂井満 裁判官 伊名波宏仁)